クレムリン

モスクワの街のつくりが、どうなっているかというと、中心にクレムリンがあって、そこから放射状に道路が延びており、それを何重にも環状道路が取り巻いているのである。クレムリンというのは、ロシア語で砦という意味だ。モスクワ以外にも、ロシアの古い街には、中心部に城壁に囲まれたクレムリンがある街がいくつもある。モスクワのクレムリンは、敷地がほぼ3角形で、東半分には大統領官邸など政治の中枢が、西半分には幾つもの教会や武器庫などがある。南側の3角形の底辺はモスクワ川に面している。モスクワ川の対岸から眺めると、城壁の向こうに、金色に輝く玉葱型の教会のドームが幾つも立ち並び、その美しさは忘れ難い。

クレムリンには、朝10時の開門の15分ほど前に行ったが、入場券売場には、ガイドに連れられたスイス人や韓国人の団体が並んでいた。入場料には国内料金と外国人料金とがあり、外国人料金は200ルーブル(1ルーブル=4円として、800円)である。武器庫(昔は武器の倉庫だったのでこの名があるが、現在は博物館)は1日4回の決まった時間しか入れないので、まず武器庫に行くことにする。武器庫は別料金で、さらに290ルーブル払う。王室で使われた衣類、王冠、食器、家具、工芸品、馬車など、すばらしいコレクションが展示されている。

次に、武器庫の隣のダイヤモンド庫を見る。ここも別料金で250ルーブル払う。写真撮影禁止で、厳重に荷物検査され、カメラを持っていると、入れてくれない。ダイヤモンドの原石をザクザク入れた、小さなバケツぐらいの容器がいくつも並べられていたり、ダイヤモンド、金、銀、ルビー、サファイヤ、エメラルドなどをふんだんに使った、目が眩むようなアクセサリーが、たくさん展示されている。中でも、一番奥の部屋のエカテリーナ2世の王冠が圧巻である。これは、王冠にダイヤを飾っているのではなく、王冠全体が、大小さまざまの数え切れないほどのダイヤを繋ぎ合わせて作られているのだ。

そのあと、教会を見て回る。受胎告知(ブラゴヴェシェンスキー)聖堂、大天使(アルハンゲリスキー)聖堂、聖母昇天(ウスペンスキー)聖堂などがある。ロシアはキリスト教だが正教会(オーソドックス チャーチ)なので、カトリックやプロテスタントとは違う。「西側」「東側」という単語は、かつて資本主義、共産主義の区別を意味していたが、その区別がなくなっても、宗教や文化の面では、東西の違いがある。教会の内部は壁画や木板に描かれたイコン(聖像画)でいっぱいだ。それから、イコンがいっぱい並んだ、イコノスタス(聖障)という、信者の席と奥とを隔てるための仕切りがある。ひと通り見て外に出ると1時半になっていた。

ホテルへの帰り道で、ウエディングドレスを着た女性が歩いているのと出会った。花婿や友人たちも一緒だ。何だろうかと思っていると、同じようなグループが次々とやって来るではないか。モスクワでは、結婚式の後、無名戦士の墓に花を捧げに来る習慣があるそうだ。クレムリンの壁ぎわで、無名戦士の墓の炎は燃え続けている。



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