トレチャコフ美術館

ワシーリ寺院から歩いてトレチャコフ美術館に行こうとしたが、途中で道に迷い1時間近くかかってしまった。途中、ミチノクバンクという看板の出ている建物があったが、青森の、みちのく銀行が、支店を出しているのだった。

トレチャコフ美術館はプーシキン美術館と並ぶモスクワを代表する美術館である。プーシキン美術館がロシア以外の世界の美術を収集しているのに対し、トレチャコフ美術館はロシア美術を専門にしている。商人のトレチャコフが個人的に収集したコレクションを母体に作られたが、今ではロシア最大級の美術館になっている。行った日は、一部の展示室が工事中で閉鎖されていた。そのためか、ガイドブックにでていた、シャガールやカンディンスキーは見られなかった。また、展示室を回るのに行き止まりになっている所が何か所もあって、そのたび元に戻ることになり少し疲れた。(外国人入場料210ルーブル)

美術館には、先生に連れられた小学生達のグループがたくさん来ていて、絵の前で先生(それとも美術館の係員?)の説明に聞き入っていた。日本では小学生を美術館に連れて行く事はあるのだろうか。私の記憶にはない。日本には小学生にうまく芸術の説明をできる先生はあまりいないだろう。ロシア人の子供は男も女も、みんな痩せていて肌の色が透き通るように白くて奇麗だ。年配の人は痩せて白い人は少ないので、年を取るにつれてだんだん色が濃くなって肥えてくるのだろう。

展示はロシア美術の流れが分かるようになっていて、名作も多く、見ごたえがあった。特に心をひかれたのは、イコンである。実は、行った時にはイコンについては良く知らず、帰ってきてから本を読んだのだが、イコンというのは、正教会の聖像画で、主に木の板にテンペラで描かれている。テンペラとは、絵具を卵で溶いたものである。キャンヴァスに油絵で描くのはルネサンス時代に発明されたので、それ以前はなかったのだが、イコンはそれ以後も伝統的な手法で描かれている。イコンには同じ構図のものが多いが、それは伝統的に形が決まっているからだ。西欧の絵画では画家の独創性が重視されるが、イコンは、神の姿が画家の手を通じて現れるという考え方なので、画家が好きに描く事はないのだ。もちろん画家の心や技量の差によって出来具合は違ってくるが。

トレチャコフ美術館の代表的なイコンは、「ウラジーミルの聖母」とアンドレイ・ルブリョフの「聖三位一体」である。「ウラジーミルの聖母」はウラジーミルの教会にあったので、この名がついている。幼子イエスを抱いた聖母マリアの絵である。今まで見慣れた西欧の聖母子像では、聖母マリアはふっくらと肉付きが良く、幼子イエスは裸であるが、ここでは、聖母マリアは痩せて細面で、茶色の頭巾とマントを着ており、幼子イエスは金色の服を着ている。「聖三位一体」は、神とキリストと天使の三位一体を現していて、庭のテーブルを囲んで3人が座っている図である。宗教的な意味は良くは分からないが、不思議と心をひくものがある。

見終わると2時になっていた。まだ昼食を食べてなかったので、地下のカフェへ行った。ピザ、何だか分からない揚物、サラダ、ジュースを食べて、2人で130ルーブル(500円)。揚物をナイフで切ろうとすると、中から液体が噴き出して驚いた。後で分かったが、これはキエフカツレツという料理で、鳥肉でバターを巻き込んで揚げたものだった。食べる時には溶けたバターをからめて食べるらしい。

帰りは地下鉄に乗る事にする。料金は4ルーブル。自動改札に切符を入れ、日本のように前の方から切符が出てくると思って進んだら、ゲートが閉まってしまい、駅員さんに助けに来てもらうはめになってしまった。切符は入れた所から出てきて、それを取ってから、前に進まなくてはならなかったのだ。地下鉄の中はロシア語だけなので、もしもロシア文字の読み方を知らなければ駅の名前も分からない。モスクワの地下鉄は地下宮殿と言われる事がある。日本よりホームの幅がずっと広く、柱や短い壁で、上りホーム、下りホーム、その中央の通路の3つに別れていて、中央の通路が美しく飾られているのだ。




前に戻る 目次に戻る 次に進む